Tapps’Caféは、洋食に思い入れのある店主が作る食堂です。

で、洋食屋?食堂?どっち?

洋食屋にもつ煮があったら「え?」ってなるけど、食堂にハンバーグやオムライスがあってもおかしくないでしょ?
だから、うちは食堂です。
「はいっ!今日のお話は、以上おしまい」
なのですが….

終わりは始まり

そもそも百貨店に勤めるサラリーマンだったという話は以前にここでも書きました。
夜な夜な飲みに繰り出し、お気に入りの店に通いつめるうちに
店主にあこがれ、カウンターの向こう側の世界に惹かれ…
っていうのは事実ではあるのですが、

実はあこがれたのは”おいしい料理を作る店主”ではなく、
惹かれたのは店主の”接客”や店の”温度感”店に流れる”プライスレスな時間”

私にとって本当に魅力的なのはそっちでした。

同じ接客に携わっていながら、百貨店のそれは当時の私にとってはとても窮屈なものに感じられ
飲食の世界の自由すぎる接客にあこがれていってしまったのです。

そして私は無謀にもそっちの世界に飛び込んでしまいました。

料理は誰かに任せればいい、でも料理人になめられない程度に料理のスキルは身に着けたい
そんな”なめた”考えで飛び込んだ調理場は
芸人さんが飛び込む熱湯風呂のごとく、容赦なく私をはじき出しました。

それでも何とかしがみついて、少しずつ料理に向き合い始めたころ
青葉台のブックファーストで、たまたま手に取ったお料理本。
パラパラとページをめくり目に入ってきたのは、デミグラスソースの作り方。
その時はじめて、「俺これ作りたい」って思ってしまったのです。

その日(ほんとは次の週の休みの日なんだけど、ここは脚色ね)からデミの試作をはじめました。
レシピ通りにやれば誰でも同じものができる、
わけないですよね。
いろんな条件が重なって、たまたまおんなじようなものに仕上がるってことはあるでしょうけど。
できあがりを安定させ、自家消費ではなく人様に召し上がっていただくものに仕上げるには、
行間に読まなければいけないことが数多あります。
そして、その本を監修した店には創業時から続くあるサービスがありました。
それは料理に関することならなんでも教えてくれるという電話サービス、

当時職場では”聞いたら教えてもらえるような空気感”は一切なく、
ドラマ「天皇の料理番」で主人公が料理好きの学生と紹介されると事細かく親切だった料理人たちが、
実は同じく料理人と知ると一切何も教えなくなる、っていうような場面がたしかあったような覚えがあるんですけど、
ああいう感じかな

ほんとに教えてくれるかな?料理人ではないけれど飲食店勤務は事実だからそれは伝えておかなきゃいけないよな?
とか、ぐだぐだ考えながらもいざ電話をかけてみると、
だから何なの、といわんばかりにさらっと流され
私の細かすぎる質問に即答してくれたり、時には次回までおあずけにしてくれたり
それはもう”言葉にはできないくらいの、感謝をせざるを得ない対応”をしてくれたのです。

その店は日本橋にある某有名洋食店、本を監修されたのは2代目オーナーシェフ、そして私の質問に向き合ってくださったのは現オーナーシェフである3代目。
この本とこのお店は私の料理とのかかわり方を変えてくれた恩人ともいうべき存在。
そしてきっかけを与えてくれたデミ、洋食という料理は同じく私にとっては特別な存在なのです。

料理は人に任せようとしていた自分は終わりをつげ、おいしい料理を人様に召し上がっていただきたいという自分が始まりました。

それから

そうやって洋食に思い入れだけは持っている「お料理1年生」が誕生しました。
それからはちょっと真面目に向き合いましたよ。
何のためにそこで塩をふる?とか、
無数にあるレシピの行間を読むことを意識しながら一つ一つ。

それから数年の月日が流れ、2007年に当店は開業しました。
思い入れのある洋食を中心に提供するカフェとして。
かつて自分があこがれた店主のように、お客さんと会話ができるようにと、カウンターを据えました。

オープン当初、圧倒的大多数はおひとり様。
夜な夜なお仕事帰りに立ち寄ってくださる方々は、やがて常連さん同士の輪を広げ
うちじゃないどこか別のお店で飲んだ後、おみやを片手にやってきて
カウンターのお客さんに配っちゃったりするもんだから、おかげでうちにオーダーが入らなかったり。
どんだけ商売のじゃますんですか!などと言いつつも、
そのやり取りが楽しかったり。
そんな方々のリクエストを聞くうちに、洋食カフェのメニューはしだいに居酒屋よりになっていきました。

開店10周年、屋号を「ごはんとおかず 蹊亭」にあらためました

店名と内装とメニューのこのミスマッチ感どうすんのよ?
そんな考えが頭をよぎるようになっていったころ、開店10周年をむかえました。
で、メニューと店名くらいは同じ路線にしようかとつけた名前が「ごはんとおかず 蹊亭」
メニューも和の方向に振り、やがて原点ともいえる洋食はメニューから少しずつ減っていきました。
冬の看板だったグラタンはおでんや鍋にとって代わり、ロースカツはカツ煮に姿を変えていきました。

おのれコロナめ!

そして訪れた最大の敵、コロナウイルス。
コロナ禍にあって、通常営業ができなかった当時、私は近隣のスーパーマーケットでパートタイムの職に就くことにしました。
その期間は実に2年半。
その収入と補助金のおかげで廃業の危機を迎えることはありませんでしたが…
ただ、あまりにも長いコロナ禍の時間は人々の生活様式を変えてしまうのに十分であったと感じています。
コロナが終息し、少しずつ日常が戻っていっても、
ルーティーンのごとく夜な夜な立ち寄ってくださっていた常連さんの全部が戻ってきてくれることは、
残念ながらありませんでした。

「原点回帰」、などと大仰なことを申し上げるつもりはありませんけど…

低迷する売り上げを何とか元に戻したい。
心機一転、スタートを切りたい。

そんな気持ちもあって、再び屋号をTapps’Caféに戻し、原点である洋食を中心にしたメニュー展開を決めました。
時代とともにメニューは変化し、屋号まで変更を繰り返した当店ですが、
創業時から変わらない一つの考え方を持っています。

飲食店は飲み食いするためだけにあるのではない

私がお客さんに提供したいのは、当店で過ごされる楽しい時間、あるいは価値のある時間と言ってもいいかもしれません。

あくまで主役は”時間”であってその名バイプレーヤーとしての”料理”であり”お酒”である。
そう思っています。

だから、一人でしっぽり飲むときに、奴やもつ煮があるのです。
仲間とわいわい楽しむ夜には、肉ましの炒め物がおすすめなのです。
糊のきいた真っ白なテーブルクロスの上で、ナイフとフォークで食べるハンバーグが洋食なら、
ごはんと味噌汁と一緒に箸で食べるハンバーグも、
それはやっぱり洋食なのです。

洋食屋にもつ煮があったら「え?」ってなるけど、食堂にハンバーグやオムライスがあってもおかしくないでしょ?
だから、やっぱりうちは「洋食に思い入れのある店主が作る食堂」なのです!






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